グレート・インフルエンザ
The Great Influenza
新型インフルエンザパンデミックを考える前に必読な1冊。科学者達の熱い戦いの記録!
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概要・あらすじ
本書は、20世紀最初の新型インフルエンザパンデミック、通称スペイン風邪について語られたドキュメンタリーです。スペイン風邪発生の地である米国を舞台に、1918年当時ではその実態が正確に掴まれていなかった新型インフルエンザウイルスと、多くの科学者達の戦いや、第一次世界大戦と軍や軍のリーダー達の関わり合い、また崩壊していく街や市民と行政との関わり合いが、ノンフィクションで記述されています。
舞台を米国に固定し、市民の視点ではなくてリーダー達の視点で新型インフルエンザウイルスとの戦いが記録されています。当時の科学者達の思考や行動、新型インフルエンザに関する細かな科学的描写、新型インフルエンザを拡大させる原因の一つとなた戦争との関わり合いなどが、合計500ページを超える内容で克明に記されており、パンデミックの前になすすべがなかった当時の世界の様子と、それでも必死に戦いを挑んでいった多くのリーダー達の努力が、非常にリアルにまとめられております。
感想・思ったこと
直近で人類に最大の被害をもたらしたパンデミックが、およそ100年前に発生したスペイン風邪になります。本書を読むと、当時の医療技術では新型インフルエンザに抵抗することができず、文字通り新型インフルエンザの前になすすべがなかったことがよくわかるのですが、それ以上に政治や国際関係といった理由により、パンデミックへの抵抗がしづらかったという事実も理解できました。
1918~1919年のスペイン風邪の時代に「この病気の原因はなんだ?」という状態であった医療技術は、21世紀の現代には大きく進歩し、次のパンデミックに対してアラートをあげられるほどになっています。しかし、当時新型インフルエンザに抵抗するだけの技術があったとしても、前述の政治的な理由や権力者の面目などの影響により、大きく事態が好転することはなかったのではないか?という疑問が本書を読むと沸いてきます。
本書は、市民の視点ではなくてリーダー達の視点で語られています。そのため、「被害の受け手」としてのリアリティは完全な物ではありませんが、逆に大きな影響力と実力を持っているはずのリーダー達が、この災害の前には立ち尽くすしかないという事実が、次のパンデミックに対する恐怖を煽ります。
新型インフルエンザに対する知識、社会が崩壊していく様子、それでも戦いを挑むリーダー達の姿などが、非常に克明に記録されている本書。パンデミック対策を行う前にぜひ一度読んでおくと、新型インフルエンザに対する理解を深める為にとても役に立つはずです。内容が濃いためじっくりと読むことをおすすめします。
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書籍の情報
著書名…グレート・インフルエンザ
The Great Influenza
著者…John M. Barry(ジョン バリー)[原著] , 平沢 正夫[翻訳]
出版社…共同通信社
初版発行日…2005/03/01
紹介文…「BOOK」データベース
1918年、突然の恐怖が人々を襲った。積み重なる死体、人通りの絶えた街、霊柩船と化した兵員輸送船、パニックに輪をかけた当局の対応―。世界中で最大推定1億人の生命を奪った史上最悪のインフルエンザの実態と、その謎を解き明かそうとした科学者たちの奮闘を描く。
目次
- 1.群れ
- 第1章 インフルエンザの大発生
- 第2章 ウイルスの謎
- 第3章 免疫システム
- 2.火薬庫
- 第4章 米国の参戦
- 第5章 戦争と医学界
- 第6章 悪夢の広がり
- 第7章 試行錯誤
- 第8章 ワクチンの誕生
- 3.始まり
- 第9章 迫りくる危機
- 第10章 パンデミックの襲来
- 第11章 時間との戦い
- 4.爆発
- 第12章 フィラデルフィアの大失敗
- 第13章 戦争のさなかに
- 第14章 凍りつく街
- 5.流行病
- 第15章 ただのインフルエンザがなぜ
- 第16章 原因の究明
- 6.競争
- 第17章 科学者達の戦い
- 第18章 ニューヨーク市公衆衛生局
- 第19章 崩壊寸前の街
- 第20章 アベリーの挑戦
- 7.戦い
- 第21章 国策とインフルエンザ
- 第22章 医療体制の整備
- 第23章 立ち上がる人々
- 第24章 終わらないエピデミック
- 第25章 世界を駆け巡った殺人ウイルス
- 8.停滞
- 第26章 翻弄される文明
- 第27章 パリ講和会議への影響
- 第28章 大流行の残した物
- 9.終幕
- 第29章 霧の中で
- 第30章 インフルエンザ桿菌をめぐって
- 第31章 悲劇の天才