Voicyそなえるらじお #1064 「病院船」は災害時に役立つか?整備の現状や課題などのお話
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執筆者:高荷智也

おはようございます!備え・防災アドバイザー高荷智也がお送りする「死なない防災・そなえるらじお」、4月15日(火)、本日も備えて参りましょう!
海洋国家日本
本日のテーマは「病院船」のお話です。
今回はコメント欄にいただいたご質問への回答、質問をくださいましたのは『岩川伸幸』さんです。
『今日はタイタニック沈没事故から113年が経ったわけですが、その繋がりという訳ではないのですが…最近病院船というものが気になっていて南海トラフが発生してインフラが途絶えたとしても船があれば何とかなるんじゃないかと思うのですが?流石に高荷先生は海外の病院船までは行った事はありませんよね。ちなみに、僕は船に乗るために北海道や九州に行く位の船好きです(*´ω`*)』
病院船のメリット
病院船とは、医療設備を備え、患者の治療や手術、入院などができる機能を持つ船のことです。陸上の病院と同じような役割を、海の上で果たすことができます。災害時や医療資源が不足している地域で、移動しながら医療を提供するために活用されます。
病院船は、陸上の医療機関が被災し機能不全に陥った場合や、地理的な要因で医療支援が届きにくい地域において、以下のような重要な役割を果たすことが期待されます。
- 移動可能な医療拠点: 病院船は自力で移動できるため、被災地の状況に合わせて柔軟に移動し、医療ニーズの高い場所へ迅速に医療資源を届けることができます。
- 早期の医療介入: 発災直後、陸上の医療体制が混乱している状況下でも、病院船が早期に到着し、救急医療や初期治療を提供することで、被災者の生存率向上に貢献できます。
- 多様な医療機能: 近代的な病院船は、手術室、病室、検査室、薬局などを備えており、外来診療から高度な外科手術、入院治療まで、幅広い医療ニーズに対応できます。
- 医療従事者の派遣拠点: 病院船は、医師、看護師、その他の医療従事者の宿泊・活動拠点となり、被災地への医療チーム派遣と継続的な医療活動を支援します。
- 感染症対策: 病院船は、一般の避難所とは分離された環境を提供できるため、感染症の蔓延を防ぎながら医療を提供できます。また、隔離病棟などを備えている場合もあります。
- 心理的支援: 医療行為だけでなく、被災者や医療従事者に対する心理的なケアやサポートを提供する役割も期待できます。
- 物資輸送の拠点: 医療物資だけでなく、食料、水、生活必需品などを輸送し、被災地へ届ける拠点となることも可能です。
日本の状況
現在、日本は国として病院船を保有していません。民間では、日本のNGOピースウィンズ・ジャパン(PWJ)が、災害医療に特化した民間病院船「Power of Change」を2023年7月に就航させました。大規模災害や離島・へき地での医療支援を目的として運用されています。ヘリパッドや医療スペースを備え、独自の活動を行っています。
一方で、近年の災害の多発や大規模化を受け、病院船の必要性が改めて認識され、国としても整備に向けた動きが出てきています。
- 病院船推進法: 2021年5月に「災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進に関する法律(病院船推進法)」が成立しました。これは、国が病院船を保有するために必要な環境整備を目的としています。
- 推進本部設置: 2024年5月には、岸田首相を本部長とする「船舶活用医療推進本部」が設置され、本格的な検討と運用体制の構築が開始されました。
- 運用開始目標: 政府は2026年1月の運用開始を目指し、民間船舶事業者との協定締結や医療従事者・医療資器材の確保、運用マニュアルの作成などを進めています。
- 役割想定: 傷病者を被災地外の医療機関へ搬送する「脱出船」と、被災地付近の港に接岸して医療を提供する「救護船」の2つの役割が想定されています。
- 将来的な専用船保有も視野: 実績を踏まえ、将来的には専用の病院船の保有も検討するとしていますが、具体的な時期は示されていません。
- 民間船舶の活用を検討: 当面の間は、民間の既存船舶(主にカーフェリーなど)を活用し、災害時に医療機能を提供する方向で検討が進められています。
病院船の課題
病院船は災害医療において大きな可能性を秘めていますが、その能力を最大限に発揮するためには、克服すべき多くの課題や、想定される使えない状況が存在します。改めて、病院船が使えない状況、課題、問題点をまとめます。
病院船が使えない状況
- 港湾施設の被害
- 地震や津波などにより、病院船が接岸できる港湾の岸壁、桟橋、航路などが損壊した場合、物理的に接岸できず、医療活動を開始できません。
- 2024年の能登半島地震では、地震による港の隆起により、港そのものが消滅しました。2011年の東日本大震災では、東北地方太平洋側の港湾施設が津波で壊滅し、文字通り全ての港が1ヵ月以上使用不能となりました。また1995年の阪神・淡路大震災では、大阪港は無事でしたが、神戸港が使用不能となりました。
- 病院船が必要な状況というのは、こうした大震災などがその筆頭となりますが、多くの震災において港が使用不能となる被害が生じ、特に南海トラフ地震などでは甚大な津波被害が想定されている他。
- 半割れと呼ばれる、東西どちらかの地域に先に巨大地震が生じた場合、残りの地域には「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒)」が発表されますが、この情報が発表されている期間は追加の巨大地震と津波の発生が想定されるため、はたして被災地に病院船を送り込むことができるのか、かなり難しい想定となります。
- また、港が無事であっても、被災地から港までのアクセス道路が復旧しなければ患者を運ぶことができず、災害直後に欲しい病院船を、災害直後ほど使えないというジレンマも生じます。ヘリコプターなどの空輸手段が不可欠となりますが、天候や機体の数に制約を受けます。
- 悪天候・海象不良
- 台風、高波、濃霧などにより、病院船の安全な航行や停泊が困難になる場合があります。特に、発災直後の不安定な気象条件下では、移動や活動が制限される可能性が高まります。
- 強風や高波は、患者の搬送や物資の積み下ろし作業にも危険を伴います。台風などによる大規模水害が生じている状況でも病院船が欲しいところですが、嵐が収まるまで運用ができないというのは問題です。
病院船の課題・問題点
- 高額な建造・維持コスト: 病院船の建造費、維持費、運用費は非常に高額であり、費用対効果が常に議論の対象となります。特に、平時の活用方法が明確でない場合、その必要性に対する理解を得にくいことがあります。
- 専門人材の確保: 病院船で高度な医療を提供するためには、多様な専門分野の医師、看護師、技師などの医療従事者だけでなく、船舶の運航に必要な専門人材を確保する必要があります。平時には使用しない設備に対して、非常時だけどうやって人材を集めるのかというのも大きな課題です。
- 平時の活用策の検討: 災害時以外の平時における病院船の有効な活用方法を見出すことが、コストに見合うだけの価値を生み出すために重要です。訓練、離島・へき地医療支援、国際貢献などが考えられますが、具体的な運用体制の確立が必要です。
これらの状況、課題、問題点を踏まえ、病院船の導入や運用においては、現実的かつ多角的な検討と対策が求められます。単に病院船を保有するだけでなく、その能力を最大限に活かすための周辺環境整備や運用体制の構築が不可欠と言えるでしょう。
本日も、ご安全に!
本日は「病院船」のお話でした。
それでは皆さま、引き続き、ご安全に!
近年、災害の多発や大規模化を受け、その必要性が改めて認識され、整備に向けた動きが出てきています。以下に現状をまとめます。
国の動き:
病院船推進法: 2021年5月に「災害時等における船舶を活用した医療提供体制の整備の推進に関する法律(病院船推進法)」が成立しました。これは、国が病院船を保有するために必要な環境整備を目的としています。民間船舶の活用を検討: 当面の間は、民間の既存船舶(主にカーフェリーなど)を活用し、災害時に医療機能を提供する方向で検討が進められています。推進本部設置: 2024年5月には、岸田首相を本部長とする「船舶活用医療推進本部」が設置され、本格的な検討と運用体制の構築が開始されました。運用開始目標: 政府は2026年1月の運用開始を目指し、民間船舶事業者との協定締結や医療従事者・医療資器材の確保、運用マニュアルの作成などを進めています。役割想定: 傷病者を被災地外の医療機関へ搬送する「脱出船」と、被災地付近の港に接岸して医療を提供する「救護船」の2つの役割が想定されています。将来的な専用船保有も視野: 実績を踏まえ、将来的には専用の病院船の保有も検討するとしていますが、具体的な時期は示されていません。