Voicyそなえるらじお #955 悲観的な準備と楽観的な待機…宝永の南海トラフ地震から317年
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執筆者:高荷智也
おはようございます!備え・防災アドバイザー高荷智也がお送りする「死なない防災・そなえるらじお」、10月28日(月)、本日も備えて参りましょう!
317年前
本日のテーマは「宝永の南海トラフ地震」のお話です。
本日10月28日は、江戸時代の中期に発生した超巨大地震、宝永地震が発生した日です。この地震は、いつ生じてもおかしくないと言われている南海トラフ地震のひとつと考えられており、前前々回の南海トラフ地震にあたります。今回はこの地震のお話。
宝永地震
317年前の今日、西暦1707年10月28日、旧暦では宝永4年の10月4日、お昼過ぎの午後14時頃に、静岡県沖の遠州灘から、紀伊半島沖、四国沖までを震源とする超巨大地震が発生しました。想定されるマグニチュードは8.6から9.0程度、西日本全域に強い揺れが発生し、広い範囲に大津波が押し寄せた、宝永の南海トラフ地震の発生です。
前回の昭和南海トラフ地震が1946年と1944年、前々回の安政南海トラフ地震が1854年、そして今回のお話、1707年の宝永地震が前前々回の南海トラフ地震となります。歴代の南海トラフ地震のなかでも宝永地震の規模は最大級で、2011年に東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震に次ぐ超巨大地震だったと想定されています。
宝永地震は強い揺れと大きな津波を広い範囲にもたらしました。現在の静岡県から愛知、三重、和歌山、徳島、高知、宮崎までの海岸沿いでは、最大震度6強を超えるような強い揺れと、高さ10メートルから20メートルに達するような大津波が襲来し、壊滅的な被害を受けました。
さらに地震の揺れは、内陸となる山梨、長野、岐阜、滋賀、奈良、大阪でも震度6弱・6強に想定する揺れを観測、西日本の広い範囲で震度5弱以上の強い揺れが生じたと想定されています。
津波の影響範囲も広く、房総半島から東京湾・相模湾で数メートルを超える津波が、伊豆諸島から駿河湾、遠州灘、三河湾、紀伊半島・四国・九州の太平洋側には大津波が、とりわけ現在の高知県沿岸には高さ20メートルを超える津波が押し寄せたと想定されています。また瀬戸内海や九州の日本海側にも大きな津波が到達し、広い地域に被害をもたらしています。
南海トラフ地震による被害
例えば伊豆半島の南端にある下田では、ほぼ全ての家屋が津波で流されるか地震で潰れるかの壊滅的な被害が発生。当時の大阪市街地にも河川から逆流した津波が押し寄せ、大阪周辺だけでも2万人近い死者が生じたと想定されています。高知県、当時の土佐国では地震による地盤沈下と津波の影響で多くの集落が文字通り全滅するなどの被害が生じています。
これらの被害は、まさに直近で作成されている南海トラフ地震の被害想定と同じようなものになっており、南海トラフ地震の被害想定は対策を進めるために煽った内容なのではなく、過去にも実際に生じた被害に対する備えを訴える内容であることが分かります。
宝永の南海トラフ地震では、強い余震が連続して発生した他、翌朝には富士山の周辺での強い地震、2週間後には高知で、3週間後には山口で誘発地震が発生するなど、2011年の東日本大震災と同じように繰り返し強い地震に襲われ続けたことが分かっています。
さらに宝永地震で特徴的なのが、地震から49日後に発生した富士山の噴火です。1707年12月16日、宝永の南海トラフ地震に誘発される形で富士山が大規模噴火を起こし、周辺の村は火山灰による壊滅的な被害を受け、冬の偏西風に乗って江戸の町にも火山灰が降り積もるなど大きな影響が生じました。
江戸については、南海トラフ地震そのものの影響は限定的でしたが、この富士山噴火の影響を強く受けており、これが現在に再現された場合には、西日本は地震と津波で壊滅し、首都圏も噴火の影響で機能停止となり、想定不能の大きな被害に発展することが想定され、恐れられております。
次にこうなるとは限らない
ということで、宝永の南海トラフ地震と富士山噴火についてのご紹介をしましたが、このようなあまりにもひどい被害の話を聞くと、もうだめだ、何をしても無駄だ、などと考えたくなってしまう方もいるかもしれません。
一方、繰り返し発生し続けている南海トラフ地震のなかでも、この宝永地震は最大級の特別な巨大地震であり、また富士山噴火による火山灰の影響も、やはりここ数千年で1度しか生じたことのない特異な状況と言えます。
現在公開されている南海トラフ地震や富士山噴火による被害想定は、これら最悪オブ最悪の被害を元に作成されたものになりますので、それはもうひどい被害が想定されているのですが、次に実際発生する地震や噴火が、ここまでひどいものになるかは分かりません。
そもそも、私達が生きている間に次の南海トラフ地震や富士山噴火が生じるとは限りませんし、起きたとしても小規模なものになる可能性もあるわけです。予知のできない地震や噴火への対策は常に備える以外に方法がありませんし、その際にモデルとすべきなのは想定最悪の被害ですが、これが良い意味で無駄になる可能性もあります。
悲観的に備えつつ、準備が終わったら楽観的に構える、そのような気持ちが必要ではないでしょうか。
本日も、ご安全に!
本日は「宝永の南海トラフ地震」のお話でした。
それでは皆さま、引き続き、ご安全に!