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Voicyそなえるらじお #676 処理水③…トリチウムは蓄積される?なぜALPSで除去しない?

最終更新日:

執筆者:高荷智也

Voicyそなえるらじお #676 処理水③…トリチウムは蓄積される?なぜALPSで除去しない?

おはようございます!備え・防災アドバイザー高荷智也がお送りする「死なない防災・そなえるらじお」、9月8日(金)、本日も備えて参りましょう!

シリーズ処理水問題③

本日のテーマは「トリチウム排出問題」のお話です。

  • 前回・前々回に引き続き、シリーズ「処理水海洋放出」ということで、今回もトリチウムのお話をしたいと思います、今回がラストです。

前回のお話

  • まずはおさらいです。「トリチウム」の海洋放出は問題なのかどうか。放出されている放射性物質が、真に「トリチウム」だけであり、かつ規定の量を下回っていれば、特に問題にはならない。故に、トリチウム以外が放出されていないか、またトリチウムの量は適正かを、常にモニタリングすることが重要とお話をしました。
  • また昨日のお話で、トリチウムは自然界でも毎日作られていますし、原発を動かせば生成される物質なので、世界中の原発から毎日ドバドバ・トリチウムが放出されています。実際、事故を起こす前の福島第一原子力発電所事故からも、トリチウムが海洋放出されていましたが、今回の処理水の放出では、事故前の放出量よりも少なくなるように調整していますので、やはり問題は無いと言うことになります。

どうして問題無いのか

  • トリチウムは、放射線を出す、放射性物質です。放射線にはいくつかの種類があります。α線、β線、ガンマ線、中性子線の4つです。ちなみにいわゆるレントゲン検査であびているX線も放射線で、物理的にはガンマ線とX線は同じものになります。自然界からも放射線をあびていますし、医療現場でも放射線をあびるわけですが、量が少なければ問題にはならないということになります。
  • トリチウムはβ線という種類の放射線を出しますが、トリチウムが出すβ線は威力が弱く、空気中では5mm程飛ぶとエネルギーを使い果たして消えます。また、水中や人の身体の中では0.005mm程しか進むことができません。
  • 少し具体的にお話をしますと、トリチウムが放出するβ線のエネルギーの大きさは、おおよそ5.7キロ電子ボルトです。単位については覚えなくて大丈夫です。
  • 一方、原子力発電所の運転で精製される他の放射性物質、聞いたことがあると思いますがストロンチウムというヤバイ物質があります。ストロンチウムにも、放射線を出すものと出さない物があります。放射線を出すヤバイストロンチウム90は、トリチウムと同じβ線を出すのですが、そのエネルギー量はおおよそ546キロ電子ボルトで、トリチウムの100倍のエネルギーを持っています。人体にも影響をもたらしますので、処理水には含まれないように、除去されているのです。
  • ということで、お風呂やプールや海に浸かれば、あるいはシャワーをあびれば、トリチウムと接触することになりますが、身体の外からトリチウムのβ線を受けても、皮膚を貫通することはできないため、影響はありません。
  • また、水を飲めばトリチウムを取り込むことになりますが、トリチウム水は普通の水と変わりませんので、新陳代謝で自然と身体の外に排出されるため、蓄積されるということはありません。
  • トリチウム100%の水を飲めば、影響が出るかもしれませんが、トリチウム100%の水を作るためには、すさまじいコストと時間がかかります。恐らくですが、同じ重さの黄金よりも、トリチウム100%生搾り水の方が高いのではないでしょうか。
  • また、実は高純度のトリチウムは、未来のエネルギーである核融合発電の燃料になるのですが、これを容易に作ることができたら、ノーベル賞物ですし、大金持ちになりますし、人類をエネルギー問題から救った英雄として、永遠に教科書に載ることになります。
  • ようするに、濃いトリチウム水は現実的に作れないので、心配しなくて大丈夫と言うことになります。

アルプスのお話

  • ところで、福島第一原子力発電所にはアルプス・多核種除去設備という装置があります。
  • 「ALPS」(アルプス)は「Advanced Liquid Processing System」(アドバンスド リクイド プロセッシング システム)の頭文字をとってアルプスです。開発したのは東芝です。東芝は元々原子炉などを作っていた、すごい会社なんですね。過去形になっているのが残念です。
  • メルトダウンした原子炉で生まれたいわゆる汚染水は、アルプスを通すことで、トリチウムを除く放射性物質を取り除き、処理水となります。トリチウムはなぜ取り除かないのかと言うと、ひとつは取り除くのにお金がかかりすぎて、現実的に難しいこと。もうひとつは、トリチウムは海洋放出しても問題の無い物質ですので、取り除く必要がないからです。
  • アルプスは、水の中に含まれている放射性物質を、様々なフィルター的なものを使って吸着して、取り除いています。しかし、トリチウムは水素であり、酸素と結合して水を作っています。普通の水と、トリチウム水は、化学的にはどちらも水であるため、水から水を取り除くということが、できないのです。
  • また、防災備蓄でもおなじみの「RO浄水器」逆浸透膜を使った浄水器を使うことでも、水に含まれる全ての放射性物質を取り除くことができますが、やはりトリチウムだけは取り除けません。RO膜は、水だけを通すろ過膜で、水よりも大きな分子である放射性物質はブロックされるのですが、トリチウムは水そのものになっているので、RO膜を普通に通過してしまうのです。
  • ただ、よほど濃度が高くなければ、そのまま飲んでも大丈夫なので、取り除く必要もないと言えます。
  • ということで、シリーズ処理水問題は今回でいったん終わりにします。トリチウムだけが海洋放出されていれば、特に気にする必要はありませんので、これまで通り太平洋側の美味しいお魚を食べて大丈夫です。
  • 万が一、トリチウム以外の物質が放出されている、などの報道が出た場合は、色々NGなので、ニュースをよく見てください。

本日も、ご安全に!

ということで、本日は「トリチウム排出問題」のお話でございました。

それでは皆さま、本日も引き続き、ご安全に!

サイト管理者・執筆専門家

高荷智也(たかにともや)
  • ソナエルワークス代表
  • 高荷智也TAKANI Tomoya
  • 備え・防災アドバイザー
    BCP策定アドバイザー

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