Voicyそなえるらじお #173 日本唯一の地震予知を前提とした法律「大震法」はなぜ消えた?
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執筆者:高荷智也

おはようございます!備え・防災アドバイザー高荷智也がお送りする「死なない防災・そなえるらじお」、8月12日(木)、本日も備えて参りましょう!
警戒宣言という恐ろしい発表
本日は「地震予知と警戒宣言」に関するお話です。
- 昨日 #172 の放送で、2009年に発生した駿河湾地震のお話をしました。
- 駿河湾地震では、地震そのものの被害に関する注目とあわせて、この地震は想定されていた東海地震なのか、あるいはその前兆なのか、という辺りにも注目が集まりました。
- 現在日本国内で地震観測を行っている公的な組織は、気象庁ですが、気象庁は現在の所、地震予知はできないという見解を示しています。
- 具体的には、地震の大きさ、地震が起こる場所、地震が起こる時期の3つがそろった地震予知は、現在の科学的知見では不可能である、という見解です。
- ちなみにこれ、逆に言えば、地震の大きさ・場所・時期の3要素のうち、2つの要素だけであれば、適当にいえば地震予知が成立するということになります。
- 例えば、マグニチュード6以上の大地震が、東京23区の直下で発生するでしょう。という予知はあたります。日本はどこでも大地震が生じる国ですので、時期を特定しなければ、どこにでもそのうち大地震が発生します。
- また、1ヶ月以内に、東京23区周辺で地震が発生するでしょう。という予知もあたります。小さな地震も含めれば1日5回以上の地震が発生しているのが日本です、大きさの指定をしなければ、高い確率でどこかに地震が来ます。
- さらに、マグニチュード6以上の大地震が、3ヶ月以内に発生します。という予知もおそらくあたります。日本では場所を特定しなければ、1ヶ月に1回以上のペースでM6以上の大地震が起きているからです。
- ということで、適当な地震予知で不安がることなく、常に備えることが重要だというお話なのですが、じつはこの地震予知、2017年まで国が取り組んでいた例があります。それが、東海地震の予知なのです。
大震法
- かつて、日本で唯一「予知」の可能性があった地震が存在しました。それが、駿河湾を震源とする東海地震です。
- 南海トラフエリアでは、90年から150年程度の間隔で、周期的に大きな地震が発生しています。
- 直近3回の南海トラフ地震を見てみると、南海トラフエリア全体が一度に揺れた、いわゆる「南海トラフ巨大地震」となった1707年の宝永地震。32時間の時間差で東側の東海地震と、西側の南海地震が発生した1854年の安政地震。そして、2年間の時間差で少し小さめの地震が発生した、1944年の昭和東南海地震と1946年の昭和南海地震です。
- このうち、駿河湾周辺のエリアについては、昭和の南海トラフ地震で揺れておらず割れ残った状態となっていたため、近い将来に駿河湾を震源とする東海地震が単体で発生してもおかしくない、と考えられ、「前兆現象」を丁寧に観測して捉えることができれば、予知ができるのでは、ということで地震予知がスタートしました。
- この、日本で唯一、地震予知を前提とした法律が、1978年6月15日に成立した、大規模地震対策特別措置法、通称「大震法(だいしんほう)」です。
大震法の中身
- 大震法では、駿河湾で東海地震の前兆現象とみられる現象が確認された場合、判定会と呼ばれる会議体が招集され、有識者が東海地震の発生につながるかどうかを検討し、東海地震発生の可能性が高いとされた場合、総理大臣から警戒宣言が発令される段取りになっていました。
- 警戒宣言が発令された場合、静岡県を中心とした東海地震の被害想定エリアに対して、道路の閉鎖、鉄道の停止、店舗の営業停止、学校の強制帰宅など、かなり強い権限を持った事前対策が行われることになっていました。
- 実際、静岡県の学校や企業などでは、この警戒宣言が発表された場合の行動マニュアルなどが整備されており、なにをどうするかが細かく決められていたのです。
- ということで、この大震法という法律は、東海地震の予知ができることを前提とした法律になっており、これに従った防災計画も多く作られていたということになります。
大震法のその後
- ところが問題が生じます。
- 大震法が作られた1970年代は、科学技術の発展がめざましい時期であり、今後の進歩で予知の精度はドンドン高くなると期待されていました。
- ところが実際に予知活動・各種の観測を続けていますと、どうもやればやるほど、科学的に地震予知は難しいと言うことが分かってきたのです。
- さらに、1995年の阪神・淡路大震災や、2011年の東日本大震災をはじめとする大きな地震が、90年代後半から2000年以降にかけて頻発したことから、地震予知よりも、地震が発生することを前提とした防災対策に力や予算を注ぐべきだという機運も高まりました。
- さらに、3.11東日本大震災以降、南海トラフ全体の地震に対して備える必要が高いことが分かり、南海トラフエリアの中で駿河湾だけを集中的に観測することは違うのではないか、という考えがなされるようになり。
- 結果、2017年を持って、東海地震の予知は取りやめとなりました。
- 国が、正式に、地震予知は不可能、という見解を持ったということになります。
本日も、ご安全に!
ということで、本日は「東海地震に関する予知・警戒宣言と大震法」に関するお話でした。
ちなみに現在も、従来通りの地震観測は続けられています。ただ、駿河湾だけではなく日本周辺の広い場所が観測の対象となり、また予知を前提とした対策や法律はなくなっています。
今、南海トラフエリアで、大地震の発生につながる恐れのある前兆現象などが観測された場合は、従来の警戒宣言に変わり、「南海トラフ地震臨時情報」というものが、気象庁から発表されることになっています。この言葉を聞いた際には、特に情報の内容に注意するようにしてください。
それでは皆さま、本日も引き続き、ご安全に!